Voicy Journal

人の声が流れる「音姫2.0」ってあり? Shiftallの岩佐琢磨さんと考える音声×IoT

人の声が流れる「音姫2.0」ってあり? Shiftallの岩佐琢磨さんと考える音声×IoT

「音声×テクノロジー」をテーマに、IT業界をリードする方をゲストに迎えてVoicy代表の緒方憲太郎と対談する新連載。今回は家電スタートアップとしてIoT業界をけん引してきたCerevoの元代表で、現在はPanasonicグループのShiftall代表である岩佐琢磨さんに、家電やIoTの文脈から、音声の未来を語ってもらいました。

岩佐さんはなぜ2年前にラジオを作ったの?

緒方:IoT家電を立て続けにリリースして脚光を浴びた岩佐さんですが、「Hint」というラジオ端末もつくってたんですよね。ハードウェアとしてのラジオのどういうところに興味をもったんですか?

岩佐:僕らはすごくフラットで、流行っていないものも好きなんです。むしろみんなが飛びついてるものにはいかないというルールが自分のなかにあります。これは天の邪鬼なんじゃなくて、要は僕がチキンなだけで。

昔からみんなと一緒に競争したらだいたい自分が一番できなかった。だから周りがみんな「これからはソーシャルゲームだ、メッセンジャーアプリだ」とかやってるときはそっちにいかない。

だって負けるから。負けないにしてもレッドオーシャンだから。そういうのが好きな人もいるけど、ぼくはブルーオーシャンのほうが好きです。

緒方:普通にプレーするのだけでは勝てない人っていますよね。オリジナリティ、独創性で勝負できる世界じゃないと不利になる。何も考えずに走るだけだと負けるから、その前にひとつ考える。

岩佐:そうです。あのラジオは2017年に発売したんですが、2年前にハードウェアとしてのラジオを作ってたっておもしろくないですか?誰もやらないですよ。ニッポン放送のアナウンサーの吉田尚記さんがやりたいと言って、じゃあやりましょうと組んだんですけど、面白いプロジェクトでした。

緒方:作ってみて可能性を感じたことは。

岩佐:まずあれは相当実験的なプロジェクトでもあるのですが、面白い機能として、DTMF音(電話のピポパ音)をラジオに乗せて流すとラジオを聴いている人が持っているスマホにURLをプッシュ通知するというものがあって。技術的にはBLE Beaconです。放送を機器が変えてくれるわけです。「ハードウェアがコンテンツを変える」っていう面白いものを、ラジオに持ち込めたんじゃないかなと。

緒方:ユーザーの行動を変えるのは、僕らもやりたいところ。Hintを知ったとき「なぜ既存のラジオコンテンツしか流れないのか」と悔しい思いをしました。他のサービスにも市場を広げれば、もっと面白いですよね。僕もハードウェア大好きですが、ハードを活かすも殺すもソフト次第。僕らもやりたい。

人間ってアクションファーストにはなれない

緒方:今のスマートスピーカーって、声を掛けたら答えてくれるという「アクションファースト」。でも、思っているほど人間ってアクションファーストにはなれないんじゃないか。

声をかけてから音が流れるのではなく、もっと受動的に、常に音が出ている状態に変えていきたいです。生活の中にメディアが入ってくるほうが、もっと有効に音声を聴いてもらえるのではないかと。

岩佐:ラジオはまさにそうですよね。ずっとかかっているだけ。

緒方:そうですね。だからずっと生活している間にどんどんコンテンツがやってくるっていう当たり前の世界の方を作ろうとしているんですよね。

声をかけたら音が始まるっていう世界じゃなくて、音が出てるのがデフォルトの状態に変えていって、そこから適切に出し分けていったほうが早いんじゃないかと。

岩佐:止めたいときだけ止める。AlexaやGoogle Home対応のODM(注:既に完成していてちょっと外装を変更するだけですぐにスマートスピーカーとして売れる形で用意されているもの)が山のように出ているので、それで実現できると思いますよ。電源を入れたらVoicyが流れて、止めてと言った時だけ止める、という仕様に。

例えば、端末の裏にQRコードを貼っておいて、ユーザーにVoicyアプリでスキャンしてもらう。それでユーザーと端末が紐づくようにして、その人がいつどんなものを聞いているかわかるようにできますね。

緒方:むちゃくちゃおもしろい! 2019年のうちにやりましょう!

岩佐:それなりにいばらの道ではあると思いますが、ハードウェアは結局どれもいばらの道なので、その中ではトゲが少ないほうではあります(笑)

「音姫2.0」の可能性とは

緒方:もうひとつポテンシャルある気がしていて、いろんなところに事業提携の話をしに行くときに、Voicyすごいんですよと。音声なにがすごいのかというと、いままでのメディアはすべてワンインターフェイス、ワンフォーマットだったんですね。

テレビだとテレビの縦横比になっていて、スマホだったらスマホの縦横サイズで、それに合わせて作らないとコンテンツは出せなかった。けど音声はフォーマットが1つでいんです。

スマホから出すときでも、家から流れるときでも、お風呂でも同じコンテンツを同じフォーマットで出せる。ということは、その1つのコンテンツにめちゃくちゃコストをかけられるはずなんですよね。

僕らは多端末でいけるからこそ、お茶の間全員に、国民全員に届くメディアを目指せるんじゃないかと。いうたら、音姫から出すし、お風呂の操作盤からとかも。

岩佐:現状の音姫からは(技術的には)出せないですけど(笑) それは音姫2.0ですか。

緒方:そう、その音姫2.0にSIMをつんで、音声を流してしまえば、カスタマイズできるし、お風呂の中からも出して、新聞を読む人にはQRコードをつけて読み取ったらぽんと音がでるようにすれば、実は全国民に一番リーチできるのは音声だったりするかもしれない。

岩佐:それは面白いですね。本来IoTってそういうことなんですよ。音姫2.0ってネタ的にもとてもわかりやすくて

緒方:おっさんの声で「ザーッ!」って出たら面白くない?

岩佐:いやですけど(笑) まあでも好きな声優さんの声だったらいいかもしれない。

緒方:ああ。「がんばってね!」って。

岩佐:でも音姫がわかりやすいのは、従来はネットワークに繋がっていない、単体の音を流すスピーカーが、ネットワークにつながることによってさまざまな音を流せるようになるということですよね。

このアプローチってすごく普遍的なもので、柱2.0みたいなのもできるし、「うちのドアしゃべれるんです」みたいなのもあっていい。

その方向にいくと、どのデバイスからも音声コンテンツが流れるというのは、全然普通にいけるでしょうね。

緒方:うちらはそれを目指していて、そこに配給するプラットフォームをつくりたい。そのIoT上の音声配給プラットフォームというのがVoicyのコアバリューになるようにしているんですね。

岩佐:なるほど。映像におけるNetflixと若干近いのかもしれない。

ハードウェア作りは技術よりもノウハウ

緒方:岩佐さんって昔からすごく面白いプロダクトをどんどん出してくるなってずっと思っていたんです。

DOMINATOR(※アニメ「PSYCHO-PASS サイコパス」の劇中に登場する武器を忠実に再現したスマート・トイ)とか、スマホと連携するスノーボードとか。

外側から見ると、ただ好きなことやっているように見えて、何を目指していて何を作っているんだろうって不思議だったんです。岩佐さん自身は、これまでどんなキャリアだったんですか?

岩佐:学生時代はベンチャーっぽい会社の手伝いでネットサービスを作ったりしていました。いい経験だったのは、僕はプログラミングなんかは圧倒的にできなかったんですけど、プロジェクトマネージャー的な役割や、顧客の調整役として入るとプロジェクトがスムーズになることがわかった。

だから、企画をやろうと思って就活したんです。企画って調整の側面が強いから。

緒方:それでパナソニックに入ったんですか?

岩佐:学生時代の経験から興味を持ってもらえたのか、新卒から企画職に入るパスを作ってもらえました。パナソニックに入社後はWebサービスの企画をしていました。ガラケーから操作できるUI/UXで、ネット家電の対向側になるWebサービスを作っていたんです。

2007年にパナソニックを辞めてCerevoをスタートするときに、IoTのサーバサイド、クライアントサイド、ハードウェアをわかっている会社が少なかったので、そのポジションを取れたのがよかったと思っています。

緒方:それら3つの知見があることが強みなんですね。

岩佐:知見と言っても技術ではなくて、ノウハウなんです。家電の世界って「大したことないけど知らなきゃ作れない」ってことが本当にたくさんある。

例えば、洗濯機って水が入ってるところに羽根がはいっていて、それがモーターで回って水が漏れないんですよ。すごくないですか? 軸のところがとある方法で防水されているから水漏れしない。それは、ノウハウを知っていればわかること。さらにはハードウェアの世界ってすごく広いから、教えてあげても競合になり得ない。

岩佐さんが突然Voicyの社長になったら何をやる?

緒方:最後の質問になるのですが、岩佐さんが突然Voicyの社長になったら、どんな施策を打つと思いますか?

岩佐:そうなったら、キラーコンテンツは欲しいですよね。過去のアメブロが芸能人のブログを全部持っていったみたいに、声優の事務所をひとつ買って一気に始めてもらうとか……。

「音声と言えばVoicy」と認知させて、それをパワーに追加の投資を受けて、緒方さんがさっきおっしゃっているようなプラットフォーム構想に入っていくかな。

緒方:圧倒的な強みを作っていくわけですね。なるほど。今日は本当にいい話をありがとうございました。

ライター:栃尾江美

ERPのエンジニアを経てライターへ。ITライターからスタートし、数年前よりインタビューを中心に活動中。ポッドキャスターとしても5番組に出演。Voicyでは「コルクラボの温度」を配信している。二児の母。

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