Voicy Journal

なぜ? いま「外の声が聞こえるイヤホン」が売れている理由–音声メディアの意外な特性

なぜ? いま「外の声が聞こえるイヤホン」が売れている理由–音声メディアの意外な特性

「音声×テクノロジー」をテーマに、Voicy代表の緒方憲太郎がIT業界からさまざまなスペシャリストを招いて語り合う社内勉強会。

今回はVoicyで「それでもメディアは面白い」というチャンネルで放送している“赤メガネとコムギ”こと、松浦茂樹さんと久保田大海さんをゲストに、音声のメディアの特性について語りました。

昔、ねとらじをやっていました。

松浦:僕はテキストを書くのが苦手です。これまでいろんなネット上のテキストメディア でやってきていますが、実は僕が責任をもって書いている文章はオンライン上に実はほとんどありません。よっぽど音声の書き起こしの方が多いと思います。

書く能力がないことを自覚していて、テキストメディアのプロデュースはやるけれども自分がやることはないと割り切りました。

その昔、自分でラジオサーバを自宅に立ててネットラジオをやってました。一番多い時でリアルタイムで50人が聞いてくれている状態でした。その方がよっぽど聞いてもらえるし反応があるなと思いました。

緒方:そうやって長くやっている方からすると、最近音声が来ていると言われるのはどう思いますか。

松浦:人が聴く環境は変わっていないと思います。今もブラウザを立ち上げて音声を聞くこと自体は変わっていないですし、やっぱりリアルで聞いて反応があるものを続けたくなります。録音のものよりもリアルタイムで聞いてくれている人がいる方が圧倒的に感動があります。

緒方:それで言うとVoicyは録音ですよ。

松浦:そうなんですけどね(笑)。そして、Voicyはフィードバックが大事なメディアだと思っています。なぜかと言うとインサイダー感というか、有名になればなるほど外からの目線が気になって自分を演じるようになってしまうからこそ、自分のインナーサークルが欲しくなるというイメージがすごくあります。

緒方:アーカイブ性のところはとても意味があると思っています。アーカイブするほど面白いものを作れということかもしれませんね。

ライブ配信は「ありがとう」とかみんなが書いていることにコメントをするだけで成立してしまう。存在感の共有でしかないと思います。

それに対して、僕たちは音声のライブの出会いを用意しているのではなく、音声コンテンツとして文化に残るものを作ることをしています。

Voicy、次期アプリ改修はどうなる?

松浦:Voicyはフローとストックの部分で言うとストックの意味が大きいんですね。

緒方:そうですね。Voicyは次のアプリ改修でもストックのところに力を入れています。

松浦:ただ、とはいえコンテンツはトレンドでもあると思うんです。僕たちもいまのメディア論を話すことが多いですし、腐りやすいストックと腐りにくいストックがあると思っています。

かつ僕はこれまでフローのコンテンツを多くプロデュースしてきました。最後まで腐らず残るコンテンツはやはりまだ少ないと実感しています。緒方さんはそのフローについてどう考えていますか。

緒方:答えは見つかっていないですが、音声はむしろ生物だと思っていて、その人の感情も含めてストックできるものだと思っていて、日記みたいなイメージです。過去にその人が思った感情やテンションもそのまま残しておけるものってこれまでなかったと思います。

文字のほうが全員に過不足なく情報を伝えることができますが、それがその時に緊張しているか言葉が詰まっているかどうかはわかりません。

でも音声なら、日頃聞いている人はわかるわけです。会っていればいるほど平均値との差分がわかります。その人の平均値を知っていることで差分を知ることの喜びがあると思います。

だから過去のコンテンツに触れれば触れるほど新しいものに触れる喜びがある。

Voicyのコンテンツはストックかフローか?

松浦:実は今日、緒方さんのいろんなインタビューを読んできました。Voicyは「今日を彩るボイスメディア」って書いているからこそ、「今日」がフローだと思っていました。

久保田:2.5次元ミュージカルに何度も通う人たちのファン心理がわかりました。要するに同じ演目を演じても何度も楽しめるっていう話じゃないですか。

日々の声というものが体と同じだから、テレビで作られている表情ではなく、生だからいいという声の良さがあるんだと思います。それがストックなのかどうかはわからないです。

緒方:それが生をストックしているという意味なんだと思います。

同じ言葉をしゃべっても人によってだいぶ変わってしまいますよね。なので文字よりもすごいじゃじゃ馬だと思っています。

逆にこういうシーンがあったら嬉しいよね、というものを、今何が必要なのか考えることが大事なのかなと思っています。

例えばうちのお母さんが、おばあちゃんの声が入った木箱をずっと捨てないで置いているんですよね。何回かたまに元気を出したい時に聴くんですよ。それはその時のばあちゃんの今日なんです。それがストックされていると思うんですよね。だからこそそれが時間時間を切り取れる体験だと思います。

かつそれが例えばエジソンが「電気できたーー!」と言っている声が残っていればすごく面白いと思うんですよね。

感情や気分も取れるのが声の良さだと思っていて。それがストックとして魅力があるのだと思います。

松浦:それは競馬実況も同じかもしれませんね。名実況がアーカイブで残っているのは結局、熱量その他もろもろ感情が残っていることに価値がある。それぞれの試合のシーンで名シーンがありますし、実況者次第で変わります。

でもVoicyはマスメディアを狙ってるんですよね?

久保田:そうなんだ。

緒方:久保田さんが言うマスメディアって何ですか。

久保田:それは自分で考えなさい(笑) わかりやすいところでは、ハリウッド映画がなぜマスになったかっていうところですよね。フランス映画はマスになってない。

やっぱり小難しいものよりも、わかりやすいコンテンツというのがマスになりやすい。

音声はリテンションをかけづらい

緒方:今の話は、同じ動画の中で、マスになったかマスになってないかの話ですよね。ということは音声でも可能ですよね。ラジオは一応マスメディアになっています。

久保田:アメリカはPodcastが流行っていますが、それは車に乗る社会だからですよね。日本では電車に乗りますが、そんなに長い時間は乗らない。だからこそあまりボイスを聞くっていう感覚がないんだと思います。

ちなみに、Voicyが一番聞かれてるのっていつ頃なんですか。

緒方:夜寝る前で、通勤通学も聞かれることは多いです。

松浦:僕はスマホ時代だからこそVoicyが来ると思います。これからは隙間時間の積み重ねで消化していくようになると思います。それで言うと音声も好きな時間の積み重ねでマスに広げていけるようになると思います。

久保田:音声はリテンションをかけづらいですよね。

松浦:リテンションをかけづらいのはコンテンツよりも体験の部分ですよね。テレビだと電源を入れればすぐに映像が流れます。radikoやVoicyで不思議なのはスイッチを入れた瞬間に音が流れないことです 。

久保田:人を中心にしているメディアだからだと思うんですけれども、 YouTubeを配信する「ユーチューバー」のように、Voicyで配信する人にも、文化を作る独特の名前が生まれると良いなと思っています。

緒方:僕はそれが自動的に出てくるのを待っています。先ほどの話に戻りますが、テレビはテレビのスイッチを入れて、ケーブルを繋いで、テレビの前で待っていなければいけないんです。

でも今はスマホ時代で、スマホを出せばいつでもコンテンツに触れられる時代がきます。そうした時に、今後は人間が触れていられる時間が一番長いメディアがマスメディアになる可能性がある。

今後は生活のいたるところで音声が聞けるようになると思います。机から出る、壁から出る。すごいうるさくなるじゃんっていう考えもありますが、そうじゃなくてイヤホンをずっとつけて生活するようになって、場所によってイヤホンに入ってくる音源が変わっていくる。となると、人間の1日の中で一番触れているメディアになると。

「外の声が聞こえるイヤホン」が売れている理由

久保田:イヤホンを24時間つけっぱなしという可能性はたしかにあると思います。おそらく視覚がサイネージというかAR構造になっていくかもしれないなと思っています。

音声についてはどうだろうと考えた時に、イヤホンをしたままだと危ないみたいな話は出てくるので、そのレイヤー構造をどうするかを考えています。まあ、ありえなくはないのかな。

緒方:最近は面白いんですよ。これまではノイズキャンセリング機能をもったイヤホンが人気だったのに、いまは外の声が聞こえるイヤホンがたくさん売れています。

生活音は聞こえながらも、音声を楽しみたいというニーズがすごく出てきているんだと思います。

久保田:だらだら見るのはテレビとかラジオみたいな一方的に時間方向に流れるもの。文字は自分で見るスピードがコントロールできるものだと思っています。

緒方:今日の話、面白いですね。コンテンツとして音声が面白いというところと、どういうシーンで聞くのかというところが出てきたり。そうかと思ったら自分のペースとかっていうところが出てきたり、いろんなところでバトってますね。

結局、可能性をどんなふうに持ってきたらいいのかなと思っていて、いま音声の未来があるかないかを考えたい時に議論したい内容としては、他のフォーマットにはない面白いコンテンツが音声で生まれるかどうかが一番の肝になると思っています。

そのコンテンツが出ればそれを得るためのUIを作ればいいだけなので、やっぱりコンテンツイズキングだとある意味思っています。そのあたりはどう思いますか。

久保田:それは「くすぐる 」という感覚で表現できる気がします。例えば、自分の体を自分でくすぐると、当然くすぐったくはありません。

ロボットアームを自分で動かしてくすぐらせるとどうなると思いますか。自分で同時並行に進めることができれば、くすぐったくないんです。でも、少しずらすとロボットの手に感じてものすごくくすぐったく感じるんだそうです。その時間はたったの0.2秒です。

ほかにも人が話すのを邪魔する装置「スピーチ・ジャマー」の実験で、0.2秒後に自分の声が跳ね返ってくると話しにくくなるという結果もあります。人間の身体性はその0.2秒に境界線が存在しているということが研究としても発表されています。

これは何の話かと言うと、聞くほうばかりではなく話すほうにフォーカスを当てたほうがいいんじゃないかと思っていて、芸能人やインフルエンサーがなぜVoicyを使いたくなるのかがすごく大事なんだと思います。

それは声でしか出せない表現があるから。その人が話したものは唯一無二なものになるはずなんです。だからこそ喋る側をもっと盛り上げるための取り組みをしてほしいというのが自分の中での1つの解ですね。

発信者をどのタイミングでヒーローにするか

緒方:結局、音声でしかできないことは音声でしか発生しないコンテンツを作ることだと思っています。だから誰がやってもいいからではなくて、この人のこのコンテンツは音声でしか発生しないというリアリティを掴めるかが大事だと思っています。

松浦:だからこそパーソナリティへのフィードバックは大事だと思っています。Voicyはそこのサポートはまだ不十分だと感じます。

緒方:サポート、逆に何があったら嬉しいですか。ラジオだったらスタジオで「お疲れ様でした!最高でした!」ってなって終わってるんですよね。

発信者の喜び自体をどこでやるのか。いま文化をゼロから作っているという意識があって、例えるなら「サッカー」という競技を作っている中で、サッカーの選手をどのタイミングでヒーローにしようと考えるかが今の課題です。

自分たちのサービスのパーソナリティがどのステージにいて、どのくらいのリワードをかけることによって、より良い方向に向かうのかを考えています。

それがゼロから文化を作ることに挑戦する醍醐味であり、めちゃくちゃ難しいところです。

松浦:それでいうとテキストメディアでは、いまはページビューとなっています。100万ページビューは1人が100万回見てるかもしれないけど、全体で100万回見られたとわかるようになっています。

緒方:確かに200PVと言われたら200人が見てくれたように思いますよね。

松浦:Voicyはそれが視聴回数でもいいと思うんですけど、それよりは音声はトータル再生時間を出した方がいいのかなというふうに思います。

久保田:僕がなぜ続けているかと言うと、メディア関係者に「よく聞いてます」って言われるからなんですよね。

緒方:それ、嬉しくないですか?

久保田:嬉しいです。突然「KOMUGIさんですか」って会った方に言われると、なんで知ってるの?って思います。再生回数は1000回もいかないですけど、聞いてる人がメディア関係者だということがあって続けています 。

お金をインセンティブにしたくない

緒方:それはフィードバックがリアルでも返ってきているということが大事なんですか。

久保田:例えばニコニコ動画が世の中に出てきたタイミングで超会議を開催したじゃないですか。Voicyもイベントをやったと思うんですけど。メディアの影響力を可視化するのが大事だと思います。

ラジオで言うところの公開収録というのはオーディエンスを可視化するというところが、パーソナリティのモチベーションにとって重要なんじゃないかと思います。

緒方:いまはお金をインセンティブにしたくないって思っています。だからこそ、「3万ページビューを自慢できる」みたいなのを作らないといけないと思っています。

松浦:食べログが何で普及したかと言うと。投稿したレビューに対して「いいね」とか「参考になりました」っていうちょっとしたフィードバックがあるのが強いんだと思います。レビュー文化としてそれがすごく強い。

緒方:Voicyって聞いているだけでそのまま流れていくサービスなので、すぐにフィードバックを返しにくいものになっています。

そうするとページビューとかではなく、ガンガン増えていく時間とかが大事なのかと思っています。

松浦:アプリ内とかでメンションの通知を貯めておくのもいいのかもしれないですね。

緒方:1回1回の放送に対してハガキ職人みたいにレビューを書くやつが出てくるみたいな。いいねを押すだけでもいいと思います。

松浦:たまにコメントに対する回答を放送することもあるじゃないですか。

緒方:じゃあ音声の未来における“ページビュー”って何ですかね。時間ってガチマッチョなので、他の人を苦しめている可能性があるんですよね。

チャンネルページを開くだけだと数字が増えなくて、再生して初めて1になる。

松浦:確かにマッチョすぎるところがある。数字は裏側で可視化できてればいい。表側だと争いが起きるから。

緒方:じゃあパーソナリティが自慢できるような数字を出すのが大事ですね。

一番いいのは数字だと思うんですけど、じゃあ10万時間ですって言われたらそれがどのぐらい凄いのかをうまく見せるといいですよね。

松浦:そうそう。我々とイケハヤとどんな差があるのかとか気になります。

Voicyのトップ層は1日で2000時間聞かれている

緒方:大丈夫です。めっちゃあります(笑)自分だったら何時間ぐらい消費されていたら嬉しいですか。

松浦:1日1時間、個人で取れたらすごい長いなと思います。僕はいま1日にテレビを見てる時間全部足して1時間あるかなっていうぐらいなので。

それは自分の中の1時間ですよね。自分たちの放送の中で何時間って書いてあれば嬉しいですか。

久保田:1万時間ですね。1万時間あれば一流になれるっていうのよく聞くし。

緒方:それいいですね!ちなみにVoicyのトップの人達は1日で2000時間聞かれています。

「毎日1万時間奪っているパーソナリティのスポンサーになりませんか?」はいいかもしれませんね。その1万時間のバックミュージックでBGMの広告を買うとか。

久保田:イチローが1万時間練習して1人前になったっていうCMとかやるといいかもしれないですね。

Voicyでは今後も様々なキーパーソンをお招きして、音声の未来に関する勉強会を開催します。引き続きレポート記事でも公開していきますのでお楽しみに。

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